母に意地悪
成人式くらい、帰ればよかった。
成人式の次の日、生物のテストだったんだよね。トンボ帰りも馬鹿らしいし、テスト期間中だし。
生物、教職の必須だからさ。
「帰り遅いね。」
母が心配すると、教職採ってるからさ、よる九時までとか講義があるの。
わたしは、やたらに教職を振りかざした。
教職なんて、選択しなくても、勝手に取れちゃう大学もある。わたしの大学はそうではなくて、わざわざ、受けられる枠の半分くらいを潰して、教職の履修科目に当てなければならなかった。
そういう講義は、大抵大教室で行われ、先生もアリバイ的に、マイクでボソボソ。なんの情熱もときめきもわかなかった。
東京に出てくる時に母と約束したのだ。
最低限、教職をとること。
自信過剰だったわたしは、そんなの楽勝♪って思った。事実、楽勝だった。楽勝はつまらない。
教職とるなら、学芸員か図書館司書の方が面白そうだな。でも、単位の関係で、両方はとれないようになっていた。
わたしにとって、親はそんなイメージ。手堅い足枷。わたしはもっと飛んでいきたいのに。潰しが利かないかも?とか、断片的にわたしが漏らした不安を大きくして心配する。
だけどさ、わたしも意地悪だったよね。スルーすればいいのに、いちいち言う事聞いて、不満ばかり当てつけてた。わたしの人生なのに。
成人式に帰ってあげなかった。
従姉妹のお姉ちゃんの結婚式で、妹の結婚式で、成人式を取り戻すように、わたしにきれいな着物を着せた。(妹の結婚式は、黒留袖だったけど。(笑))
いま、子どもたちの言動に、傷ついたり、苛立ったりするたびに、わたしはこんなもんじゃなかっただろうな。って思う。
母だって、こんなもんじゃなかった。かも知れない。忘れた。
生きてたら、話せるのにな。
死なれてしまっては、もう、検証の仕様がない。
だけど、不安だよ。わたし、30年後、あの頃ちゃんとやれてたって思えるのかな?